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●アナログなコミュニケーションが求められる時代

先日、テレビ番組の取材を受ける機会がありました。
こうした取材でよく聞かれるのが「なぜ、ここ数年ボードゲームが流行しているのか?」ということです。

私はいつもこう答えます。「人間同士のコミュニケーションに楽しさや温もりがあるからだ」と。
純粋にゲームそのものが楽しいというのももちろんあると思いますが、
その楽しいの中には、人と対面して遊ぶことのおもしろさ、温かさが大いに含まれていると思うのです。

今やSNSを通して世界中の人と指先ひとつでつながれる時代。
その反面、直に人と接する機会は極端に減ってしまいました。
だからこそ、ボードゲームで遊ぶことに魅力を感じるのだと思います。
原点回帰的な感覚で、同じ空間で顔を合わせてみんなで楽しむ、
アナログなコミュニケーションが求められていると考えています。

その証拠に「リアル脱出ゲーム」(SCRAP)は未だ根強い人気がありますし、音楽業界ではCDが売れない時代にライブやフェスといった生の音楽体験を求める人が増加するなど、人々のニーズが変化しています。


●コミュニケーションの基本は二つ

では、そもそもコミュニケーションとは何なのか。

まず、そのことを考える上で「人は一人では生きることができない」ということを
前提として理解しておく必要があります。
私たちは一番身近な家族から、友達、恋人、職場、地域、趣味の習い事まで
必ず共同体の中で誰かと関係しながら生きています。

そこで互いを分かり合うために必要なのがコミュニケ−ションです。

その基本は大きく二つあるように思います。


一つは「自分の気持ちを相手に伝えること」、
そしてもう一つは「相手の立場になって気持ちを想像すること」です。


●自分の気持ちを相手に伝える

初めに「自分の気持ちを相手に伝えること」について。

例えば、車を運転していて、右に曲がりたいと思った時。
ウィンカーを右に出しますが、これが自分の思いを言葉にすることに当たります。
これによって「右に曲がる」と意思表示をはっきりさせ、周知させることができます。

もし、ウィンカーも出さずに右折したとしたら、それは大事故につながる危険性があります。
その時、事故した相手に「自分はずっと右に曲がりたいと思っていた」と言ったところで、
誰が納得するでしょうか。


やはり、自分の思いはちゃんと言葉にして伝えないと人には伝わらない。
黙っていても伝わるだろうというのは、ある種の幻想を抱くようなもので、
とても独りよがりの考え方だと思います。

かくいう私も、口下手で自分の思っていることを人に伝えるのが大の苦手です。
むしろ、別にわざわざ言葉にして話さなくても、表情や態度、行動で伝わるのだから、
その必要は無いだろうと思っていました。


ところが、社会人として仕事をしていく中で、自分が良かれと思ってやっていることが
他の人から全く意図していなかったように捉えられてしまったり、
ものすごく準備してしっかり考えて行動しているのに何も考えていないかのように思われてしまったり。
あらゆる場面でコミュニケーション不足による悲しいすれ違いが起こるようになりました。


具材をあちこち探し回って、時間を掛け、愛情を込めて作った料理なのに、
レトルト食品だと思われて食べられているみたいな、
何というか、そこに一言でも説明があれば正しく伝えられたのに、
その言葉が無いばっかりに伝えられなかった悔しさというか。
あまりに損なことだな、と。
食べる側にとっても、「手作りなら、そう言ってよ」という話で、
手作りだと最初から分かっていれば、印象もまた変わっていたはずです。

つまり、コミュニケーション不足は双方にとっての不幸なのです。
大事なことは、心を開き、できるだけ外へ外へと自分の思いを言葉にして伝える努力を続けることです。


●相手の立場になって気持ちを想像する


次に「相手の立場になって気持ちを想像すること」について。

これは前述した「自分の気持ちを相手に伝えること」を相手も同じようにしようとしているから、
その気持ちを想像し、汲み取って、言葉の背景にあるものまで理解しようとする姿勢です。
それは伝えることと同様、コミュニケーションを円滑に進める上で、
車の両輪を成すように大事なものだと考えます。


物事を他者視点で捉え、自分とは異なる文脈で考えることができる力は、
自分の気持ちを相手に伝える時にも役立ちます。
それは相手に対し、どんな言葉を選び、どんな表現をすれば、
より響くか、より伝わるかを鮮明にイメージすることができるということ。
したがって、想像できる幅が広がれば、コミュニケーションの質も高くなるというわけです。


●コミュニケーションの本質とは

コミュニケ―ションとは自分のことを相手にもっと知ってもらいたいという気持ちと、
相手のことを自分がもっと知りたいという気持ちの交差であり、
そこによりよい関係を築きたいという愛があるからこそ生まれるものだと思います。

冒頭で「人間同士のコミュニケーションに楽しさや温もりがあるからだ」と述べましたが、
すべてはここにつながります。
結局、コミュニケーションの本質は愛だということです。


私がコミュニケーションの基本として挙げた「自分の気持ちを相手に伝えること」
「相手の立場になって気持ちを想像すること」を楽しみながら育んでいけるのは、
まさにボードゲームの魅力なのではないかと思います。





2019年7月吉日
津村 修二










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